むかしむかしのことでした。 山奥にある小さな家に真田という若い者が住んでいました。 ある日のことです。 とても寒く、吹雪も強い日でした。 真田が一人で晩飯を食べようとしていたら… −−−コンコン−−− 誰かがやってきました。 真田が戸を開けると、なんと!とても若い娘がそこに立ってぃました。 『どうしたのだ??』 と真田が問い掛けると、 『この寒い吹雪の中、道に迷ってしまいました。どうか一晩泊まらせていただけ ませんか?』 娘はそう言うと… 『こんな山奥だ、ほかに頼るところはないだろう。一晩だけなら大丈夫だ。ささ 、中へ入りなさい。腹も空かせているだろうな。今からちょうど晩飯なのだが、 一緒にどうだね??』 『はい、良くしてもらってすいません。』 真田はその娘を一晩泊めることにした。 『こんな男が作る料理だ、口に合うかどうかはままならん。』 『いいえ、とんでもござぃません。とても美味しいです。』 娘はニコリと笑い、そう言った。 娘の名は精市。 『すいませんが真田さん、そちらにある、奥の部屋をお貸りしてもいいでしょう か?』 『いいが、何をするんだ?』 『それは…言えませんが、ただ一つ、私がでてくるまで、絶対にこの部屋を覗か ないでください。』 『あぁ。でわ、どのくらいの時間がかかるのだ?』 『分かりません。朝までには終わるでしょう。』 『それまで待てばいいのだな?』 『はい。どうか…朝までには…でわ。』 とお辞儀して部屋に入った。 『何をするのだろうか…。』 ――そして数時間後―― 真田は精市が入った部屋から何やら音がしていることに気付いた。 『何の音だ??』 真田は精市が 『『どうか覗かないでください』』 と言っていたことを思い出した。しかし、゛少しぐらいなら…゛と戸に手をかけ ようとした瞬間!! 『すいませんが、喉が渇きました。何かお飲み物を頂けませんか?』 と、精市がでてきた。 『あ、あぁ。まだ終わらないのか?』 『すいません。もう少しで終わります。』 なんてことだ。約束を破るなんて性に合わん! 真田が精市にお茶をだすと、精市はまた部屋にはいった。 気がつくと、真田は眠っていた。辺りを見渡すと明るい光が戸の隙間からもれて いた。そう、朝になっていたのだ。 娘のいた部屋からは音はせず、ただ、娘の泣き声が響いていた。 真田が、 『何かあったのか?』 と尋ねると、 『もう、真田さんとお別れだと思うと…。』 そう言い、真田に泣き付いた。 『なら…』 真田が言いかけると、 『真田さん、とてもいい人でした。約束も守っていただきました。』 『それは…』 『これは、ほんのお礼です。』 精市が何かを差し出した。 『本当にありがとうございました。』 精市が外へ出たとき… 『待ってくれ!!あなたは…!!』 そこには誰もいませんでした。 真田は先程精市から貰ったものを見た。 『これは…。母が織ったものに似ている。』 真田に渡された物。それは、丁寧に織られた着物だった。 精市のいた部屋からしていた音は、機を織っている音だったのです。 それは真田の母親が織ったものに似ていて、でも、真田の母親はもういない人で 、信じられないが、精市はどこか母親に似ていた。 それは、真田の母の贈り物だったのかもしれない。いや、精市が母親自身だった のかも…。 『できれば…もっと一緒にいたかった…。』 と真田は涙をながした。 ←ブラウザバック